『辻征夫詩集』
ひょんなことから辻征夫の詩集をkindleで購入。
正直にいうと、辻氏のことは知らなかった。だけど、レビュー通りかなり読みやすい。難しいことばを用いず、辻氏の日々の暮らしのなかで書かれた詩の数々。
読んでいると情景がありありと思い浮かぶ。生活の中の一コマを切り抜いた感じのものが多い。日に焼けて少し色褪せた白い画用紙のようなイメージ。
全体的によかったが、冒頭の「沈黙」という詩が、私の好みのど真ん中の詩だった。
それと、「まつおかさんの家」。
実家に帰ったときに、こどものころよく通った道を通ると、妙に居心地の悪い気持ちに苛まれる。それは学校にあまりいい思い出がなかったことや、こどもならではの気恥ずかしさからくるであろう、知らない人やものごとへの恐怖やどぎまぎした感情を思い起させるからなのかもしれない、とこの詩を読んでいて思った。
素人の私は詩を書こうとするとこの感情を別のことばやかちがうものに置き換えられないか悪あがきするものだけど、そんな小手先のことはいいのだ、といい意味で力を抜けさせてくれる、そんな本だった。
ちなみにこの詩集はかの谷川俊太郎氏が編纂したもの。辻氏と谷川氏の対談も収録されている。日本の詩人関連の本や記事を読んでいると、かなりの頻度で谷川氏と誰かの対談に遭遇する。
2人が現代詩について批判的に語っている部分が面白かった。少し前の本だけど、ここでいっていることは今の時代にも当てはまると思う。
日常的な単語をくみあわせて詩的なイメージへと変換するバランスが絶妙。また読み返したい。